
パリ協定6条(市場メカニズム)とは
パリ協定第6条は、締約国が国境を越えて排出削減効果を融通できる仕組みを定めています。
目的は、①世界全体の費用効率を高めると同時に②各国の削減目標(NDC)の野心を引き上げること。
主に 二国間・多国間でITMO*をやり取りする6条2項 と、国連管理の新クレジット制度である6条4項 の2つの市場メカニズムで構成されます。
*ITMO=Internationally Transferred Mitigation Outcome(国際移転される削減量)
6条2項:二国間・多国間型(ITMO取引)
仕組み
ホスト国が承認したプロジェクトや政策から生まれた削減量をITMOとして発行し、パートナー国へ移転。
両国は国温室効果ガス在庫を対応調整(Corresponding Adjustment)し、二重計上を防止します。
ガラスゴー・ルールブック(COP26)で会計基準が確定し、COP28で移転様式や報告書フォーマットが合意されました。
実装例
・二国間クレジット制度(JCM):日本と29か国が参加し、発行クレジットを日本・パートナーで分配してNDCに算入。
・CORSIA:ICAOの国際航空セクターが採択。ホスト国が対応調整を付与したクレジットのみ認可される方向で議論中。
6条4項:国連管理型クレジット制度
CDMの後継メカニズム
「パリ協定クレジット・メカニズム」とも呼ばれ、国連の監督理事会(Supervisory Body)が方法論承認、活動登録、排出削減量(A6.4ER)発行まで一元管理します。
2024年にデジタル登録簿仕様とクレジット識別子(MCU-国コード-番号)が公表され、2025年に初回クレジット発行が見込まれています。
環境整合性の確保
6条4項では2%課徴金(適応基金拠出)と5%クレジット取消(総排出量削減効果の確保)を義務化。プロジェクトごとに持続可能な開発指標、追加性、長期恒久性を評価します。
期待される効果
コスト最小化と野心向上
IEA試算では、6条取引を活用すると2030年の世界削減コストを約4割節減でき、その資金を野心引き上げに再投資すれば、追加で5Gt CO₂e/年の削減が可能とされています。
途上国への資金・技術移転
ITMO / A6.4ERの売却収入や適応基金への拠出により、再エネ導入やレジリエンス強化を資金面で後押し。市場メカニズムが南北協力の触媒として機能します。
今後の課題
実運用開始までの準備:各国レジストリ連携やITインフラ整備、能力構築支援が急務。
ボランタリー市場との整合:自主クレジットが6条基準を満たす際の審査・CA実施方法を巡り議論が続く。
環境整合性と信頼性:低品質削減量やダブルカウントを排除し、質の高いカーボン市場を育てられるかが信頼性の鍵。
まとめ
パリ協定6条の市場メカニズムは、国際炭素市場の“ルールブック”として整備が進み、2025年前後に本格運用が始まります。
二国間協力(6.2)と国連クレジット(6.4)が連動すれば、コスト効率と野心向上の好循環が期待されます。
各国・企業は対応調整や品質基準に早めに適合し、ネットゼロ社会へのアクセルを踏む準備が欠かせません。

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