
カーボンニュートラルとは
カーボンニュートラル(Carbon Neutral)とは、人為起源のCO2排出量(正味排出量)と、人為的に計測・証明できるCO2除去量・吸収量が同量でバランスしている状態を指します。IPCC AR6では「炭素中立性はあくまでCO2のみを対象とし、温室効果ガス全体を扱う“ネットゼロ”とは厳密に区別すべき」と定義しています。}
ネットゼロとの違い
ネットゼロはCO2に限らずCH4やN2Oなどを含む全GHGの排出・除去バランスを示し、残余排出を実質ゼロまで下げる長期的概念です。一方、カーボンニュートラルは現時点でのCO2正味排出量をゼロにする短中期ゴールとして企業や製品で用いられます。IPCCは「ニュートラル=排出を帳消しにできる」という誤解を避けるため、削減努力の優先順位を明示することを推奨しています。
評価と達成の国際基準
ISO 14068‑1:2023
ISO 14068‑1はカーボンニュートラルを「排出量の回避・削減・除去を優先し、残余分のみクレジットでオフセットする」という削減ファーストの原則を定めています。組織・製品・イベントのいずれにも適用でき、継続的改善計画と第三者検証を義務づけます。
PAS 2060とその他スキーム
PAS 2060(BSI)やSCS Global Services、TÜV SÜDなどの認証プログラムは、ISO原則を組み込みつつ透明なオフセット使用報告を要求しています。達成宣言を出す際は、削減計画書・排出インベントリ・使用クレジットの詳細を公開しなければなりません。
SBTi Corporate Net‑Zero Standard
企業が科学的整合性を担保するための唯一の枠組みがSBTiのネットゼロ・スタンダードです。1.5 °C整合の中間目標(5~10年以内でスコープ1+2排出を42%以上削減)と長期目標(90~95%削減)を設定し、残余5~10%のみを除去クレジットで相殺できます。現在、クレジットの品質要件強化に向けて改訂作業が進行中です。
バウンダリーと算定方法
GHGプロトコルのスコープ
算定はGHG Protocolに準拠し、スコープ1(自社直接排出)、スコープ2(購入電力由来)、スコープ3(上流~下流サプライチェーン)の3層に分類します。製品の場合はライフサイクルアセスメント(LCA)で原材料調達から廃棄・リサイクルまでを網羅する必要があります。
削減ヒエラルキー
ISO 14068やSBTiは「①排出回避→②自社削減→③バリューチェーン削減→④除去→⑤オフセット」の順で対策を講じるヒエラルキーを採用します。安価なオフセットで帳消しにする前に、技術革新・再エネ導入・効率改善を優先することが不可欠です。
カーボンニュートラルの適用範囲
国家・自治体
日本は「2050年までにカーボンニュートラル」を閣議決定し、2030年46%(2013年比)削減目標を掲げています。国レベルでは電源構成転換、産業プロセス転換、CCS/CCUS導入など総合政策が必要です。
企業・組織
企業はSBTiやRE100に沿って排出インベントリを開示し、毎年進捗を外部監査で検証。脱炭素調達(サプライヤー・エンゲージメント)が競争力指標になりつつあります。
製品・サービス・イベント
製品の場合は「カーボンニュートラル認証」ラベルを取得するためにPAS 2060適合のライフサイクル排出算定とオフセット調達が要求されます。コンサートや国際会議などのイベントでは、参加者移動や会場電力などを含めた排出を補償し、残余を高品質な除去クレジットで相殺します。
オフセットと除去クレジット
炭素除去技術
植林・森林減少回避の自然ベース解決策(NbS)だけでなく、バイオエネルギーCCS(BECCS)や直接空気回収(DAC)などエンジニアリング除去が商用化段階に入っています。除去クレジットは100年超の恒久性が求められ、トラッキングと漏出リスク管理が必須です。
グリーンウォッシュのリスク
近年、「カーボンニュートラル」表示が誤認を招くとして訴訟や規制強化が進んでいます。2024年の米連邦地裁判決では、コーヒーメーカーの広告が「ミスリーディングではない」と判断された一方、企業は表示根拠の開示を継続的に求められる流れです。欧州でもGreen Claims Directive案が審議中で、虚偽や過大評価されたオフセットは罰則対象になります。
達成までのステップ
1. 排出量の可視化(測定)
活動データ×排出係数で基準年インベントリを作成。クラウド型MRVツール(GHG Protocol準拠)を活用するとデータ収集・監査が効率化します。
2. 削減計画の策定
エネルギー効率改善、再エネ調達(PPA、自己託送)、電化、プロセス革新、循環型ビジネスモデル導入などをパスウェイマップ化。削減目標は中間&長期の両方を設定し、IRやサステナビリティレポートで開示します。
3. 排出削減の実装と評価
エネルギー管理システム(ISO 50001)やサプライチェーン連携プラットフォーム(CDP、EcoVadis)で進捗をトラッキング。削減効果を第三者が検証します。
4. 残余排出への対応
削減努力後に残る排出は、信頼性・追加性・恒久性の基準を満たす除去クレジットで相殺。ISO 14068では、毎年のクレジット利用量・プロジェクト情報をパブリックレポートに掲載することを義務化しています。
まとめ
カーボンニュートラルは「排出をゼロに見せる魔法の言葉」ではなく、測定・削減・除去・透明性を徹底した気候戦略そのものです。ISO 14068やSBTiなど科学的根拠に立脚したフレームワークを採用し、オフセットに頼り過ぎない実質削減を積み重ねることが、2050年ネットゼロ社会への最短ルートとなります。

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