
CDM(Clean Development Mechanism)とは
クリーン開発メカニズム(CDM)は京都議定書 第12条に定義された国連主導のカーボン・クレジット制度です。先進国(附属書Ⅰ国)が途上国(非附属書Ⅰ国)に排出削減プロジェクトを投資・実施し、得られた認証排出削減量(CER)を自国の削減目標に充当できます。これにより先進国はコスト効率的に目標を達成し、途上国は低炭素技術・資金・雇用を獲得する協働型メカニズムとなりました。
3つの京都メカニズムの一つ
京都議定書は①国際排出量取引(IET)、②共同実施(JI)、③CDMという柔軟性メカニズムを設置。このうちCDMだけが南北協力モデルであり、登録件数・資金規模ともに最大となりました。
仕組みとプロジェクトサイクル
プロジェクト登録フロー
CDMプロジェクトは①概念書作成 → ②方法論適用・追加性証明 → ③ホスト国DNA承認 → ④第三者検証(DOE) → ⑤CDM Executive Board登録 → ⑥モニタリング → ⑦検証・CER発行という手順を踏みます。追加性(プロジェクトが無ければ排出削減は起こらなかった)が核心で、公開コメントや現地査察を含む厳格な審査が行われます。
CER発行と取引
CERは1トン CO₂相当に相当し、発行後はホスト国登録簿→国際取引ログ→投資国登録簿へ移転され、EU ETSなどで利用可能でした。発行時に2 %のシェア・オブ・プロシーズが差し引かれ、適応基金の主要財源となっています。
実績と統計
登録件数とCER発行量
2025年4月時点で7,892のプロジェクト活動(PA)と365のプログラム型活動(PoA)が登録され、累積CER発行量は約23億tCO₂eに達しています。2024年の1年間でも3,270万CERが新規発行されました。
プロジェクトタイプの傾向
初期はHFC‑23破壊やN₂O削減のハイバリュー工業ガスが主流でしたが、価格崩壊後は再エネ、小規模エネルギー効率、廃棄物発電、調理かまど、森林植林など多様化。PoAの導入により家電効率化や小規模太陽灯のような分散型案件が増加しました。
持続可能な開発と資金フロー
SD貢献要件
CDMは排出削減に加え、ホスト国の持続可能な開発(SD)への貢献を必須とし、雇用創出・大気汚染削減・電化率向上などが実績として報告されています。2002‑08年の推計では約950億ドルのクリーンエネルギー投資を呼び込みました。
適応基金への貢献
2 %CER課徴金により2008‑12年だけで3‑6億ドルが創出され、気候脆弱国の適応プロジェクト(沿岸保護、農業強靭化など)を直接支援しました。現在はパリ協定記事6でも同様のレベイ機構が議論されています。
課題と批判
追加性と過剰クレジット
工業ガス案件が排出削減コストに対し過大なCERを生み、追加性が低いと批判されました。また排出枠余剰によりCER価格は2012年に €0.2/tCO₂まで暴落し、市場メカニズムとしてのインセンティブが弱体化しました。
プロジェクト集中と地域格差
初期CERの80 %超が中国・インド・ブラジルに集中し、アフリカ諸国の参加率は低水準に留まりました。PoAや能力構築支援で格差是正が図られましたが、資金・容量不足が依然課題です。}
パリ協定下への移行
Article 6.4メカニズムへの承継
COP26‑28決定により、存続希望のCDM案件は2023年末までに移行申請を提出。1,388 PA、119 PoAが候補となり、ホスト国承認は2025年末が期限です。旧CDM方法論は2025年12月まで暫定利用が認められています。
CERの扱い
東京議定書第2約束期間後に残存するCERの一部はNDCへの使用が限定的に許容されていますが、相当調整(CA)など厳格なトレーサビリティが課される見込みです。
日本の活用と発展形(JCM)
日本企業のCDM案件
日本は2000年代に約400件のCDMプロジェクトへ参画し、累積1.2億CERを調達。エネルギー効率化・廃棄物発電が中心でした。
二国間クレジット制度(JCM)
CDMの手続負担や追加性議論を教訓に、日本はパートナー国とJoint Crediting Mechanism(JCM)を2013年から構築。高効率機器・再エネ導入の排出削減量を二国間で分配し、日本の排出目標達成やアジア・太平洋地域の脱炭素移行を支援しています。
まとめ
CDMは世界初のグローバル炭素クレジット制度として排出削減と南北協力を両立させました。価格低迷や追加性問題を抱えつつも、パリ協定下のArticle 6.4メカニズムへ経験とインフラを継承し、気候資金と技術移転を次世代の形で発展させようとしています。制度移行の成否は、透明性・環境整合性・公正な資金配分をどこまで担保できるかにかかっています。

カーボンニュートラル検定のご紹介
カーボンニュートラル検定とは、カーボンニュートラルの考え方から経済的な取り組みまで、信頼性の高い知識を幅広く身につけることができる検定です。
「どこから勉強したらいいかわからない」という方でも安心して勉強できるよう専用テキストをご用意。
また、公式テキストを講義動画でポイント解説するカーボンニュートラル検定対策講座(テキスト教材付き)もご用意していますので、それぞれのペースに合わせた勉強方法が選べます。
-
media京都議定書|カーボンニュートラル検定用語集京都議定書とは 京都議定書(Kyoto Protocol)は、1997年12月に京都で開催されたCOP3で採択され、2005年2月に発効した気候変動対策の国際協定です。附属書Ⅰ国(先進国・経済移行国)に対し、法的拘束力のある温室効果ガス(GHG)排出削減目標を初めて課しました。対象ガスはCO2・CH4・N2O・HFCs・PFCs・SF6の6種と定義されています。 第一約束期間(2008‑2012) […]
-
mediaCOP(Conference of the Parties:国連気候変動枠組条約締約国会議)|カーボンニュートラル検定用語集COP(Conference of the Parties)とは COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)は、1992年の「気候変動枠組条約(UNFCCC)」に加盟する197 か国・地域(締約国)が一堂に会し、条約および関連する法的文書の実施状況を評価し、地球温暖化対策の次の一手を意思決定する最高機関です。毎年開催されるため、COPの数字がその年の国際気候交渉の“名刺”になります。 設置根拠と役割 […]